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AFTERGLOW

Designed by Takuto Ohta

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部屋で目を閉じる。すると身の回りにある数多のモノの存在を途端に感じなくなる。記憶や経験を除いて存在を確認できたのは身体・身に着けている衣類・座っている椅子・床・時計の針の音・台所の換気扇・外の室外機・通行人の話し声のような触覚もしくは聴覚が普段無意識に知覚している質感だった。視覚情報が表面をひたすらに滑り広がっていくのに対し、聴覚や触覚には時間的奥行きや物質的奥行きを感じることができる。ただ、空間に存在するものの未だ触覚や聴覚に触れない他のモノとの接続は果たされないままであり、その手がかりの拙さと遠さに憤りを感じる。そもそもモノは視覚を伴いながら存在することが前提で制作されていないだろうか。聴覚を通じモノと人間の関係についてより深く考えてみたい。

人間は音を常に聞き続けている。視覚情報は睡眠によって一日の約1/3は休むが、耳は常に周りに気を配っている。また認識の範囲も広く、細かな情報を同時に処理することも可能である。オーケストラの指揮者が数十台の楽器の中でたった1つの音に違和感を感じられることからも分かるだろう。私たちは生活の中で多様な音を発し耳にしている。洗濯機の音、水の流れる音、窓を開ける音、服をたたむ音。機械や人間の行動の中で発現した音は生活を構成する一部である。私はいくつかの音に注目することにした。トイレを流した後の音、スイッチを押すとしばらく時間がかかりながら付く蛍光灯、玄関のドアが閉まる音。この3つの音に共通するのは人間の行動の余韻が音としてしばらく空間に残ることにある。例えば手に持っているコップを机に置いた時に出るガラスと木のぶつかる音は行為を正しく表現しているがあまりにも刹那的である。もし、モノと関わったことの余韻が意図的に残るオブジェクトが生活に取り込まれたとしたら、モノを見た時に感じる内実や感覚に変化が生まれると考えた。

Afterglowは音の持つ時間や空間的特性のある、風鈴のように行動や自然を利用し音を発生させる装置である。金属の性質を利用しモノに抱くイメージとは少し異なる音が鳴る。使用者の痕跡が空間に音として残ることで物との接続を積極的に促していく。我々は見たいものを見るといった選択の権利を常に有している。しかしながら選別的なその判断は時にとても狭い価値観を想像してしまう。ある一つの関わりが連鎖して繋がっていく。意図的な物との関係値はいままで結び付くことのなかった新たな反応へと変わる。

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